買い切りOfficeで十分?中小企業がファイル共有と費用対効果を見直す方法
担当者が急に休み、必要な見積書が見つからない。
社長やほかの社員が探しても、担当者のパソコンにあるのか、社内の共有サーバーにあるのか、メールに添付されたままなのか分からない。
中小企業の支援現場では、このような状況を目にすることがあります。
この問題が起きたとき、「買い切り版Officeをやめて、Microsoft 365やGoogle Workspaceへ変更すれば解決する」と考えるのは早計です。
結論から言うと、最初に見直すべきなのはOfficeの購入方法ではありません。
業務ファイルをどこへ保存し、誰が確認できる状態にし、担当者の不在や退職時にどう引き継ぐかという運用です。
買い切り版Office、Microsoft 365、Google Workspaceのどれを選んでも、この運用が決まっていなければ、情報共有の問題は残ります。
買い切り版Officeでもファイル共有はできる
買い切り版Officeでも、ファイル共有がまったくできないわけではありません。
作成したWordやExcelのファイルを、メールに添付したり、NASへ保存したり、別に契約したクラウドストレージへ置いたりすれば、ほかの社員と共有できます。
ただし、買い切り版Officeを購入しただけでは、会社全体で利用するクラウドストレージ、組織的な権限管理、法人メールなどは用意されません。
Microsoftも、買い切り版のOffice 2024には、Microsoft 365に含まれるOneDrive、Exchange Online、SharePoint Onlineなどのサービスは含まれないと説明しています。Microsoft 365とOffice 2024の違い
そのため、買い切り版Officeを使う会社では、ファイル共有やバックアップの仕組みを別に整える必要があります。
この仕組みがないと、次のような運用になりやすくなります。
- 作成したファイルを社員のパソコンへ保存する
- メールへ添付して受け渡す
- 同じファイルのコピーが複数できる
- 誰が最新のファイルを持っているか分からなくなる
- 担当者がいないと必要な資料を見つけられない
- ファイルを削除したときの復元方法が分からない
つまり、買い切り版Officeの問題というより、Officeとは別にファイル管理の仕組みが必要だということです。
買い切り版Officeのメリット
買い切り版Officeの大きなメリットは、一度購入すれば、そのバージョンを継続して利用できることです。
月額や年額の利用料が発生しないため、次のような会社には合理的な選択肢になります。
- WordやExcelを使う社員が限られている
- 複数人での同時編集を必要としない
- ファイル共有とバックアップを別の仕組みで整えている
- 現在の機能で業務上困っていない
- 新機能を継続的に追加する必要がない
- 利用するパソコンが固定されている
- 継続的な支出をできるだけ抑えたい
取引先から届くExcelを確認する、行政の指定様式へ入力する、特定のパソコンで帳票を作るといった用途であれば、買い切り版で十分な場合があります。
無理にサブスクリプションへ変更する必要はありません。
ただし、買い切り版には将来のメジャーアップグレードが含まれません。新しいバージョンが必要になった場合は、改めて購入する必要があります。
購入時の金額だけではなく、利用する年数、パソコンの入れ替え、将来の更新まで含めて判断することが大切です。
サブスクリプションは継続的な支出になる
Microsoft 365やGoogle Workspaceは、月額または年額で利用するサブスクリプション型のサービスです。
買い切り版と違い、契約している間は支払いが続きます。社員数が増えれば、基本的には利用者数に応じて費用も増えます。
中小企業にとって、この継続的な支出は軽視できません。
特に、毎月利用料を支払っているのに、実際にはWord、Excel、Gmailなど一部の機能しか使っていない会社では、「買い切り版の方が安かったのではないか」と感じることがあります。
その感覚は間違いではありません。
サブスクリプションは、契約するだけで費用対効果が上がるものではないからです。
多くの機能が含まれていても、使わなければ会社にとっての価値は生まれません。
多機能なサービスほど、使いこなせないことがある
Microsoft 365には、Word、Excel、PowerPointだけでなく、契約プランに応じてOneDrive、SharePoint、Teams、Exchangeなどが含まれます。
Google Workspaceにも、Gmail、Drive、ドキュメント、スプレッドシート、カレンダー、Meet、フォームなど、さまざまな機能があります。
これらを導入すると、会社で使える機能は増えます。
しかし、機能が多いことと、業務が改善することは同じではありません。
例えば、Microsoft 365を契約していても、社員が引き続きファイルを自分のパソコンへ保存していれば、OneDriveやSharePointの利点を活かせません。
Google Workspaceを契約していても、資料をメールに添付して送り合い、共有ドライブを使っていなければ、情報共有の方法は変わりません。
使い方を決めずに導入すると、次のような状態になります。
- どの機能を使えばよいか分からない
- 社員によって保存場所が異なる
- 従来の方法と新しい方法が混在する
- 一部の社員しか使わない
- 契約した機能の大半が利用されない
- 利用料だけが毎月発生する
サブスクリプションが割高になるのは、価格が高いからとは限りません。
会社の業務へ組み込まれておらず、契約した機能を活かせていないことも原因です。
使いこなせれば、利用料以上の効果を出せる
一方、サブスクリプション型のサービスを業務に定着させれば、利用料以上の効果を出せることも珍しくありません。
例えば、次のような変化が期待できます。
- ファイルを探す時間が減る
- メール添付によるファイルの往復が減る
- 複数人で同じ資料を編集できる
- 担当者が不在でも必要な情報を確認できる
- ファイルの変更履歴を確認できる
- 誤って変更した場合に以前の状態へ戻せる
- 退職や異動があっても会社にデータが残る
- 外出先や現場から必要な情報を確認できる
- 会議の日程調整や資料共有が簡単になる
- フォームへの入力を自動的に一覧化できる
- 転記や定型作業を減らせる
仮に月額費用が発生しても、社員が毎月何時間も行っていた検索、転記、確認、ファイルの受け渡しを減らせれば、会社全体では費用を上回る効果が生まれる可能性があります。
ただし、効果を出すためには、「導入後に社員が使ってくれること」を期待するだけでは不十分です。
どの業務で、どの機能を使い、どの作業を減らすのかを、導入前に決める必要があります。
Microsoft 365が向いている会社
Microsoft 365は、WordやExcelとの互換性を維持しながら、ファイル共有や共同作業を改善したい会社に向いています。
例えば、次のような会社です。
- 取引先とWordやExcelファイルを頻繁にやり取りする
- Excelのマクロや複雑な関数を使用している
- Word文書の細かなレイアウト維持が必要
- PowerPoint資料を日常的に作成している
- OneDriveやSharePointを利用したい
- 法人メールやTeamsもまとめて管理したい
- Microsoft製品に慣れた担当者がいる
OneDriveやSharePointに保存したファイルでは、変更履歴から以前の状態を確認・復元できます。Microsoft公式ヘルプ
現在の業務がMicrosoft製品を前提に整っている会社なら、無理にGoogle Workspaceへ移行せず、Microsoft 365の共有機能を活用する方が自然な場合があります。
Google Workspaceが向いている会社
私たちは、中小企業の情報共有基盤としてGoogle Workspaceを推奨しています。
理由は、単にOfficeの代わりになるからではありません。
一つのファイルを複数人で確認・編集し、コメントや変更履歴を残しながら仕事を進める運用を始めやすいためです。
特に、次のような会社に向いています。
- 社員間でファイルをメール添付している
- 同じ資料のコピーが増えている
- 外出先や現場から情報を確認したい
- 社内に専任のIT担当者がいない
- 複雑なExcelマクロをあまり使っていない
- 文書や表を複数人で編集したい
- Gmail、カレンダー、Driveなどをまとめて運用したい
- フォームやスプレッドシートを業務改善にも活用したい
Google Driveでは、Microsoft Office形式のファイルをアップロードし、元の形式で編集することもできます。Google公式ヘルプ
ただし、複雑なレイアウト、マクロ、高度な関数、外部データとの連携などがあるファイルは、Googleのツールで開いたときに動作や表示が変わる可能性があります。
そのため、Google Workspaceを導入する場合も、すべてのOfficeファイルを一度に移行する必要はありません。
Officeを残す業務と、Google Workspaceへ移す業務を分けて考えます。
OfficeとGoogle Workspaceは併用できる
買い切り版Office、Microsoft 365、Google Workspaceのどれか一つに、すべてを統一しなければならないわけではありません。
例えば、次のように使い分けられます。
- 複雑な見積計算:Excelを継続
- 取引先指定の書類:Word、Excelを使用
- 社内の進捗管理:Googleスプレッドシート
- 社内マニュアル:Googleドキュメント
- 顧客や案件の共有資料:共有ドライブ
- 大容量の設計データ:用途に合うサーバーやストレージ
- 一時的な個人作業:マイドライブ
- 会社として残す資料:共有ドライブ
判断基準は、「どの製品が優れているか」ではありません。
その業務を誰が行い、誰と共有し、どの程度の互換性が必要で、会社としてどのように残すかです。
費用対効果を判断する4つの質問
新しいサービスを契約する前に、次の4点を確認します。
1.現在、何に時間がかかっているか
ファイルの検索、メール添付、転記、確認、日程調整など、日常的に発生している作業を洗い出します。
「何となく不便」という状態では、導入後の効果を判断できません。
2.どの機能を実際に使うのか
Microsoft 365やGoogle Workspaceに含まれる機能のうち、自社が利用するものを決めます。
使う予定のない機能が多い場合は、より小さなプランや別の方法も検討します。
3.年間費用に対して何時間減らせるか
利用料だけでなく、削減できる作業時間も考えます。
例えば、社員10人がそれぞれ月に1時間、ファイルの検索や確認を減らせれば、会社全体では年間120時間になります。
この時間を人件費や本来取り組むべき業務と比較すると、費用対効果を判断しやすくなります。
4.誰が社内へ定着させるのか
導入担当者、問い合わせ先、保存場所のルール、社員への説明方法を決めます。
運用を担当する人がいなければ、多機能なサービスほど使われなくなる可能性があります。
Google Workspaceは導入するだけでは定着しない
Google Workspaceを契約しても、社員が引き続きPCへファイルを保存していれば、情報共有は変わりません。
導入時には、少なくとも次のルールが必要です。
- 会社として残すファイルの保存場所
- マイドライブと共有ドライブの使い分け
- フォルダ構成
- ファイル名の付け方
- 閲覧・編集権限
- 退職や異動時の確認方法
- Office形式を残すファイルの判断基準
共有ドライブの使い始め方については、Google Workspaceを入れたのにPCへ保存してしまう。共有ドライブを使うための最初の一歩でも解説しています。
FP SupportersがGoogle Workspaceの支援で重視しているのも、アカウントを作ることではありません。
現在の業務を確認し、Officeを残す部分とGoogle Workspaceへ移す部分を整理したうえで、保存場所や運用ルールを社内へ定着させることです。
まとめ
買い切り版Officeでも、別の仕組みを組み合わせればファイル共有はできます。
月額や年額の支出を抑えたい会社や、Word・Excelを使う人が限られている会社では、買い切り版を継続する判断も合理的です。
一方、Microsoft 365やGoogle Workspaceは、継続的な費用が発生し、多機能であるため、契約しただけでは使いこなせないことがあります。
しかし、ファイル共有、共同編集、変更履歴、退職者対応、業務の自動化などへ活用できれば、利用料以上の効果を出せる可能性があります。
判断するときは、製品の価格だけではなく、次の点を確認します。
- どの業務を改善したいか
- どの機能を実際に使うか
- どれだけ作業時間やリスクを減らせるか
- 社内へ定着させる担当者がいるか
- 会社の情報を引き継げる状態にできるか
「Officeをやめるか、残すか」から考える必要はありません。
まず現在の業務とファイルの置き場所を確認し、必要な機能と運用体制を決める。そのうえで、買い切り版Office、Microsoft 365、Google Workspaceから、自社に合う組み合わせを選ぶことが大切です。